『容疑者Xの献身』


 『容疑者Xの献身』(文春文庫)/著者:東野圭吾


これまでの2冊とは形式を異にした、ガリレオシリーズ初の長編。なので、この1冊まるまる使って『容疑者Xの献身』onlyです。別の話は入ってません。だからなのか、これまでに共通した軽妙さはなりをひそめており、物語にはズッシリ重みと厚みがあります。どっかり腰を据えて読みたいタイプのミステリになっているのではないでしょうか。これを読むより前に実写化された同名映画を観ているので、トリックはじめ筋立てまで知っていたのですが…それでも読み進めていくうちにぐいぐい物語に惹き込まれてしまい、気が付けば1冊一気読みしている自分がいました。それくらい、ホント面白い小説ですコレは! 映画館でも泣かされたけど、また本でも泣かされるとは思わなかった。“容疑者X”たちが、そして暴く側に立った湯川が、それぞれあまりにも切なくて、またやるせなくて、本当に心が痛かった。これは良質のミステリであると同時、良質のヒューマンドラマでもありますね。他シリーズ作品を知らなくても、これ単品でも読めると思いますので、ゼヒご一読を!
…でも今回は、あんま“化学”とか“物理”とかに関係ないトリックだったなあ? なんてことも思ったり。重箱のスミをつついてるだけかもしれないけど、探偵役にガリレオをあてるため無理やり犯人を関係者にしたような気がしないでもない。というか、シリーズ重ねていくごとに、“探偵が物理学者”という意義が徐々に薄れている気がします。…まあ面白ければいいんですが何でも。


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