『グラスホッパー』


 『グラスホッパー』(角川文庫)/著者:伊坂幸太郎


やはり、さすが伊坂幸太郎、とでも云うべきか、相変わらず読むごとに物語に引き込まれてゆくし、情景が目に浮かぶような描写力もすごいし、総合的には面白い、…んだろうとは思うけど。でも、個人的には好きじゃないかも。やはり、人間が人間を殺し殺されるような殺伐とした物語は、いくら「これこそハードボイルドだから」といわれようが、ちょっと素直には受け入れがたいです。同じ人死にがある物語でも、たとえば推理小説なら、トリックやら何やら謎ときの部分で面白みを味わえる、というものですが、この作品は、明らかに推理小説には分類しがたい、殺し屋がターゲットを殺す場面を追っているというだけの、いわば“殺し屋小説”ですものね。全く互いを知らない男3人の視点から進む別々のエピソードが、“押し屋”の存在を軸にして徐々に収束されていく過程は、さすが見事とは感じるけど。…でもそれだけ? みたいな? …ま、これは好みの問題ですけどね。こういうのが好きな人は好きなんでしょうし、それを否定するつもりはないです。ただ私的には、どうせ読むんだったら、もうちょっとくらい明るく楽しいモチーフの小説が読みたい、と思っただけのことですね。もし私が読んだ一番最初の伊坂作品がコレだったら…きっともう二度と伊坂作品は読まなかったかもしれないな。