『螺鈿迷宮』上下


 『螺鈿迷宮』上(角川文庫)/著者:海堂尊


やはりこの著者は、安定した面白さと読みやすさで、安心して読めますね。個人的に全く興味のなかった医療分野の物語なのに、この著者にかかっては面白く読めてしまうんだから、毎回毎回ビックリです。この物語は、主人公・医学生の天馬大吉が、幼馴染みからの依頼で桜宮病院にボランティアとして潜入することになったものの、ひょんな事故で患者として入院することになり、それによって知らず知らずのうちに桜宮病院の暗部へと踏み入ってゆくことになる、…という、言ってみればそんなストーリー。話を追うごとに、どことなく黒い雰囲気がつきまとってくるので、先が気になってページをめくる手が止められなくなります。そして、桜宮病院で展開されていた斬新な終末医療には、なるほどなあ…と、かなり唸らされました。まだ上巻の序盤だというのに、いろいろと考えさせられる部分も多いです。この物語は、医師でもあるという作者からの、終末医療についての問題提起なのかもしれません。
私が海堂尊作品を読むのは、俗に云うバチスタシリーズ『チーム・バチスタの栄光』『ナイチンゲールの沈黙』『ジェネラル・ルージュの凱旋』の3作品に続き、これが4作目になります。この作品も既読3作に負けず劣らず面白い。東城大医学部を舞台に田口先生を主人公としたバチスタシリーズとは、場所も主人公も異なりますので、既シリーズ未読でも問題はありませんが、同じ桜宮市という世界を共有している“桜宮サーガ”の一作ではありますので、そちらを先に読んでいたほうが面白さは倍増するかと思われます。時間軸としても、『ナイチンゲール〜』&『ジェネラル〜』の少し後あたりですしね。その2作を読んでいると、桜宮病院に白鳥&姫宮が出張ってる理由も理解できて、ちょっとニヤリとしちゃうかもです。
というワケで、今作品の舞台は、バチスタシリーズでも何度も言及されてました桜宮病院。そこで取り組まれている終末医療に対し、おなじみロジカルモンスター・白鳥が調査のメスを入れにゆく、という物語になってます。…とはいっても、上巻では、やっぱり白鳥は終盤からの登場です(苦笑) バチスタシリーズと同じく、あくまで白鳥は主人公じゃありませんが、出てきた途端、主人公以上の存在感を出してくれるのは相変わらずです。相変わらず、やることがメチャクチャで、ハチャメチャで、ホント楽しいったらありません。また、看護婦として早々から登場した姫宮のドジっぷりは、『ジェネラル〜』を知る読者にとっては、まあお馴染の要素ですね。速水先生が「ちょっと待て」と止めたくなったワケも、これで実証されたというものです(笑) そして、バチスタシリーズの主人公である田口先生は、すみれ先生との言い争いの際に白鳥の口から言及があったのみで登場はありませんでしたが…つか、この作品だけ読むと、あの白鳥の言い方からだと田口先生がすごい男前みたいじゃない! と思ったのは私だけですか?(苦笑) とはいえ、講師として東城大にいるというのに学生に全く名前を知られてない、ってところが、田口先生らしいっちゃらしいところですよね。


 『螺鈿迷宮』下(角川文庫)/著者:海堂尊


上巻に引き続き、読みやすさと面白さは変わらないものの…でも話が進んでいくごとに、心に暗く重くのしかかってくるものが大きくなり、最終的にはやりきれなさだけが残る、何ともスッキリできない読了感でした。白鳥はじめ姫宮や大吉の活躍もあり、謎はすべて解けたんですけどね。とにもかくにも、はたして生き残ったのはどちらなのか? これについては続編の構想もあるということなので、それを楽しみにしたいです。


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