『安徳天皇漂海記』


 『安徳天皇漂海記』(中公文庫)/著者:宇月原晴明


時代や国を超えてさえ全ての事象が安徳天皇へと帰結する、という鮮やかさ…こんなにも荒唐無稽な物語にこうまで説得力を持たせている作者の筆力たるや、本当にスゴイ! と、読み終えてタメ息です。私的には、安徳天皇にも、その背景の時代にも、そもそもあんまり関心がなかったうえに、なぜか冒頭いきなり鎌倉時代の語りから、ですから。しかも既に最後の源氏将軍である三代目の御代で。いくら時代にウトい私だって、時代が違うことくらい分かります。それで、どうやって表題の安徳天皇が、既に死した身で鎌倉時代に関わってくるのかと思ってたら、まさかそんなファンタジーな関わり方をしてくるとは! いやはや、ビックリです。そして、2章に突入するに当たって、さらにビックリ! おいおい今度はマルコ・ポーロモンゴル帝国かよ! と。なのに、それでもまたファンタジックなまでに安徳天皇へと全てが結びついていってしまう。なんて強引で、なんて乱暴で、おまけにちょっとやりすぎ感アリアリじゃない? …とは思うものの、読み進めていくだに惹き込まれてしまう、この魅力。いや、これはもはや“魔力”かな? この作者の作品には、きっとそれが満ち溢れているんでしょうね。誰も見ようとはしない“歴史の隙間”というブラックスポットを、こうまで大胆に彩色してしまう、その作者の筆力には、この一冊で、すっかり虜になってしまいそうです。もっともっと、そのブラックスポットを見せてほしいって気分にさせられてしまいました。作者についても作品についても予備知識まったくナシで読んだのが、かえって良かったのかもしれません。カンタンにあらすじだけ読んで、安徳天皇平氏滅亡までの悲劇を書いた普通の歴史モノと思って(^_^;) 、そこらへんよく知らないから読んでみたいなーと何の気なしに買ってみただけだったのですが、大正解でした。機会があれば、この作者の他作品も読んでみたいです。