『重力ピエロ』


 『重力ピエロ』(新潮文庫)/著者:伊坂幸太郎


作中の台詞を借りて云うならば、『本当に深刻なことは、陽気に伝えるべき』――という物語。…かな? これまで、『オーデュポン〜』『ラッシュ〜』『陽気なギャング〜』と読んできて、また伊坂幸太郎の別の引き出しが現れたなーと、これを読んで感じました。つくづく、読者を惹き付ける作者さんですよね。扱っているテーマがテーマですが、それの持つ重みを感じさせないサラッとしたライトな文章で、間違いなく、読み手に面白いと思わせる上手い作り方をしてると思う。でも、読了感はあまりよくないですね。どんなに『深刻なこと』を『陽気に伝えて』くれても、なにせ主題が主題ですから。結果論かもしれないけど、この物語に“春”が存在する以上、どの道を通っても、結末は救いようがないものにしかならなかったんじゃないだろうか。また、あらゆる意味で、登場人物に感情移入も私はできなかったし、その行動原理が腑にも落ちなかった。家族小説、ヒューマンドラマ、と云われれば、それはそうだろう、と思います。肯定します。ですが、これを私は是とは出来ないし、誰に是として欲しくもない。映画化に際して、“映画化が困難だった”云々というアオリ文句を見かけたけど、それもそうだろうと何となく納得できてしまいました。どうせなら、そのまま映画化しなければよかったのに。作家としての伊坂幸太郎の力量は素直に賞賛しますが、これについては誰にも薦めたいとは思えない。伊坂幸太郎作品が好きな人だけ読めばいいんじゃないかな? それなら、「これまでの伊坂作品とは毛色が違うよ」と薦めることが出来るかも。