『七姫幻想』


 『七姫幻想』(双葉文庫)/著者:森谷明子


これは面白い! 歴史スキー、特に古代〜中古あたりの歴史スキーなら、もう文句なく面白いと思います! タイトルにある『七姫』とは、たなばたの七姫――織女の七つの異称である「秋去姫(あきさりひめ)」「朝顔姫(あさがおひめ)」「薫姫(たきものひめ)」「糸織姫(いとおりひめ)」「蜘蛛姫(ささがにひめ)」「梶葉姫(かじのはひめ)」「百子姫(ももこひめ)」の称――から取っているようです。…というか、そもそも七夕伝説の織女に7つも異称があるということ自体が初耳なんですけれども(^_^;) でも、ぶっちゃけ、その『七姫』は知らなくても問題ありません。いわばモチーフですね。あくまで、その七つの異称をテーマにしている、という短編7作が、この1冊に収められています。それがまた実に面白いのです! 7編それぞれ、舞台とする時代が異なり、古代から平安を経て江戸へ、と、かなり遙か長くに及んでいるのですが。なのに必ず、他の物語との“繋がり”が自ずと見えてくるようになっています。ようするに、平たく云うと連作短編なのですね。短編7つで1つの大きな長編になっている、という感覚。しかし、そうやって連作として魅せる技が実に巧み。また、実在の人物や実際の史実もしくは伝説などにストーリーを絡めていることで、どの時代の物語か明確に読者に判らせると共に、この物語自体にもリアリティを与えているかのようです。思わず正史と比較して読みたくなります。そして特筆すべきは、伝奇的色合いを多分に含んでいるとはいえ、こんなに確たる歴史モノでありながら、なのにしっかり推理モノとしても確立されていることですね。1編1編に提示される謎が、語りを追うごとに自然に解かれてゆく。そして最後まで読んで全ての謎が解かれたようでいて、なのに尚まだ残る謎を謎のままにしていつまでも想起していたい気分にもさせられるような、不思議な読了感さえ残してくれる。――まさに、すごい、のヒトコトですね。この1冊を通し、その世界観に存分に魅了させられました。何度でも読み返したい逸品です。